玲汰、知ってる?

さっきまで莉緒を見て鼻を下を伸ばしていた先輩たちもどうしたらいいのか分からずに見ているだけ。 

「い、池内」

なにかを言いたそうに杉野がチラッと俺を見た。


俺はあいつに対してはなんの遠慮もないのに、
俺はあいつ以外の人には何故か遠慮してる。

違うことをすればヘンに思われるんじゃないかとか、誰も期待してないし求められてもないから静かに学校生活を送ろうって。

強くないし度胸もないし、こいつは大人しいからなにをしても平気だなって思われない程度の空気感で過ごせればそれで良かった。


目立つことはしたくない。
漫画のヒーローにもなれない。

だけど立花莉緒と幼なじみの時点で、
俺はもう平凡じゃない。

泣き虫は卒業した。小さいままの自分ももういない。


だったらなにを恐れるんだろう。

怖いのはいつまでも変わることのできない俺だ。


気づくと俺は人混みをかき分けて、あいつに向かって一直線に歩いていた。

そして周りの反応なんて無視して莉緒の体を持ち上げる。


「……玲汰?」

うっすらと目を開けた莉緒が声を出した。


「ったく。貧血なんて可愛いことしてんじゃねーよ」

「……はは、うるせえ」

再び目を閉じた莉緒は安心したように俺の胸に顔を預けた。


「先生、こいつは俺が保健室に運んでおきます」

「……え、ああ、うん。じゃあお願いね」

めちゃくちゃ注目を浴びてるし周りがヤバいくらいざわついてたけどもういいや。気にしない。

幼なじみが倒れてんのに見過ごしてしまったら、カッコ悪い以上に俺が後悔すると思ったから。
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