玲汰、知ってる?


「じゃあ、ここが丁度100メートルあるから走ってみろ」

莉緒は地面に書かれたトラックのコースを指さした。


「直線じゃん。俺リレーだよ。短距離走じゃないんだから意味ない……」

「走るってことに足を慣れさせておくんだよ。
いきなり走って小学校の時みたいに転びたいのかよ」

「はいはい、分かりましたよ」

俺は言われたとおり、スタートラインに立った。


完全な運動不足だし、本気で走ったのがいつだったか思い出せないほど。


そして俺は莉緒の掛け声で走りだした。

この風を切る感覚は久しぶりだ。最初はちょっと流すように走っただけ。

またスタートラインに戻ると莉緒の掛け声が響いて2回目は少しスピードを上げた。だんだんと足が慣れてきてついには3回目。

「じゃあ、次は本気な」と莉緒が言う。


再び走る体勢になったけれど、なぜか俺の視線はゴールから外れる。


「一緒に走ろうよ」

そんなことを莉緒に言っていた。

とくに深い意味はない。ただこいつもジャージ姿だし、運動靴だし俺の走りを見てるだけじゃ退屈なんじゃないかと思って。


「言っとくけど私めっちゃ速いよ」

「知ってるよ」

「玲汰が自信喪失するぐらいに」

「じゃあ、早くここに立って」

俺がそう言うと莉緒はフッと笑って隣のコースに立った。
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