玲汰、知ってる?
速いヤツが隣にいればスピードが上がる。
そういえば自分が速く走れてるなって感じる時はいつだって莉緒が隣にいた。
「どっちがスタートって言う?」
「私だろ」
「いや、けっこうそれって有利じゃね?」
「うるさいな。はい、よーい」
「待て待て待て」
俺は慌てて走る体勢に戻った。ふわりとグラウンドに風が通り抜けたところで莉緒は「どんっ!」と声を出す。
完璧と言えるほどのスタートダッシュ。
自分の足がびっくりするぐらいよく動く。タイムを測ってれば良かったと思うほど。
自惚れてるわけじゃないけど、俺ってこんなに速かったっけ?
自信がないからできないと、得意なものまで押し込んでいたことは事実かもしれない。
なんだか分からないけど、すげえ気持ちいい。
隣で莉緒の髪の毛が見えた。ヤバいと思って俺はただまっすぐにゴールだけを目指して走った。
100メートルの区切りのラインを足で踏んで、
呼吸を整えながら隣を見る。
あいつがいない。
後ろを振り返ると莉緒は50メートルのところで止まっていて、ただじっとこっちを見ているだけ。
「お前なんで……」
ハアハアとまだ俺の息が上がっている。
「自信喪失させたら可哀想だと思って」
あいつの声が周りに響いて、その顔はすごく憎たらしいぐらい笑ってた。