玲汰、知ってる?
ずっと違和感はあった。
全然気持ちが読めないヤツだけど16年間感じたことのないモヤモヤがある。
それがなんだと聞かれたら詳しく説明できないけど、とにかく最近のこいつはなんだかおかしい。
莉緒の唇がわずかに動いた気がした。
それが声になるのを待って、公園内に清んだ綺麗な声が響く。
「玲汰」
たまに、こういうドキッとさせる呼び方をする。
乱暴さもガサツさもなくて、本当に息をはくように俺を呼ぶ。そっと莉緒が指をさして、それは俺へと向いた。
「……肩に虫」
「っ!」
さっきのドキドキ感はどこへやら。俺は慌てて自転車を飛び降りて左右の肩を振り払った。
「どこどこ、どこ!?」
虫は本当にムリ。形が気持ち悪いし情けないと言われようと虫だけは……。
「あははは」
莉緒が声を出して笑った。
ちょっと寂しそうに見えた顔はもうなくなって、普段どおりの表情に戻ってた。
「もういない。どっか飛んでいった」
腹を抱えて笑う莉緒にさっきの話の続きは聞けなかった。