玲汰、知ってる?


「おーい、杉野。大丈夫か?」

そう呼び掛けながら、起動したアプリの画面を見つめる。と、その時……。


「俺と付き合ってください!」

どこからかそんな声が聞こえて窓から顔を出してみる。辺りをキョロキョロと確認すると校舎裏に人影が見えた。

人の告白を盗み見る趣味はない。

だけど気になる。ものすごく。


興味本意で少しだけ移動して、現場近くの窓に近づいた。


「ずっと好きだったんだ。急に言われてびっくりしてるかもしれないけど本気だから」

チラッと見えた顔は3組の男子。

名前は知らないけど同級生だし、見たことはある。爽やかな好青年でわりと女子から人気がある印象だけど……。


「ありがとう」

次に聞こえたのは相手の女子の声。


「でもごめん。付き合えない」

「……なんで?」


諦められないのか男子はさらに理由を聞く。

盛り上がるグラウンドの声とこの現場の空気があまりに違いすぎて、まるでここだけ切り取られた世界のようだ。


「好きな人がいる」

女子がそう告げると男子はようやく諦めがついたように「分かった」と言った。
< 92 / 161 >

この作品をシェア

pagetop