玲汰、知ってる?

その襟元には結びきれずに残っている後(おく)れ毛。首筋をなぞるように垂れた髪の毛がわずかな汗で肌に吸い付いていて、俺は無意識に視線を反らす。

莉緒の肌は今日1日で日焼けしたのか赤くなっていて、それが勿体ないほどこいつは色が白い。

莉緒のことをそういう対象で見てるつもりはないのに、幼いままではいられない気持ちがある。


「玲汰」

こういう時、女は本当に得だと思う。

男は髪の毛を結んだり、ちょっと雰囲気が変わったり、そういう目に見える変化に弱かったりする。

この体育祭という、いつもと違う空気感も胸を余計にそわそわさせたりして。特別な意味はなくても、そんな感情が生まれてしまうのが男という生き物だから。


「ミスしてバトン落としたりするなよ」

それなのに、こいつはいつも通りで。

なんだか俺だけバカみたいだ。
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