玲汰、知ってる?
棒倒しの種目が終わって、グラウンドでは次の競技の準備がはじまった。そのアナウンスを聞きながら莉緒は自分のクラスの席に戻るために立ち上がる。
「まあ、コケないように頑張れ」
俺をリレーの選手にした当事者のくせに他人事のような言い方。
「待てよ」
それにムカついたわけじゃない。そんなのはいつものことだし、素直に応援するタイプでもないし。
だから、なんで立ち去ろうとする莉緒の腕をとっさに掴んでしまったのか自分でもよく分からない。
少しびっくりした顔をして、それでも冷静に莉緒は俺を見下ろす。
「なに?」
俺の指先はちょうど手首に触れていて、ドクンドクンとこいつの動脈が伝わってくる。
別に言う言葉なんてないくせに、どうして俺は引き留めてしまったんだろう。暑さで頭がおかしくなったのかも。
「……お、俺がもし1位を取ったら、なんか考えとけよ」
とっさにそんなことを口にしていた。
「なんかって?」
「それを考えろって言ったの」
「うーん」
莉緒は空を仰ぐように見つめたあと、なにかを思いついたようにニヤリと口角を上げる。
「じゃあ、デートしてやる」
「はあ?」
「忘れんなよ」と偉そうに指をさして、莉緒は自分のクラスの元へと帰ってしまった。
……なんだよ、デートしてやるって。
しかも相変わらずの上から目線。
そんなのご褒美でもなんでもねーよ。俺を振り回して、その反応を楽しんでるようにしか思えない。
でも〝やっぱりお前はダメだな〟って、もう思われたくないから。不本意でもなんでも1位を取って、その余裕な顔を絶対に崩してやる。