チョコミントが溶ける頃に
そして、もう片方の手もきゅっと握られた。
え――――――と思った瞬間、安価なベッドが軋(キシ)んだ音がし、生嶋さんが身を起こした気がした。
唇に柔らかいものが微かに触れ、それもすぐに離れてしまう。
思考が追いつく前に、生嶋さんは鉄の手すりの上にどさっと崩れた。
反動で揺れるミント色にも見える艷やかな髪。
力なくだらんと下がる手。
動かない体。
「い、生嶋さん……」
名前を呼んでも反応はない。
手すりの上に倒れたままだと痛いだろうからと、ゆっくり彼女の体を浮かせベッドの上に寝かす。
そんな薄着じゃ寒いだろうから、掛け布団をしっかりかけ、細い手だけ布団の上に出した。
ドッキリじゃないかな。生嶋さん、悪戯(イタズラ)っぽいところもあるからやりかねないよ。
だけど、確かにぼくの目の前でしっかり目を閉じて横たわる身体は、一向に動かなくて。
不意に頬の涙の跡がひやりとする。
いつの間にか乾きかけていた涙は、また涙腺から溢れ出しぽろぽろと零れ始めた。
頭では分かっていないけど、体は分かっているのだろうか。
診察の時間になって看護師が来るまで、ずっと、ずっと冷たくなった生嶋さんの横でベッドに顔を埋め涙を流した。
ついさっきまで感じていた温もりを欲して、冷たくなった彼女の手を握りながら。
いきなり目の前に現れてぼくを夢中にさせた生嶋幾羽は、いきなりこの世を去っていった。