狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
Ⅹ―ⅸ まだ名のない君へ…
一行が出発して間もない頃…
キュリオは彼らを見送り、再び幼子の元へと戻ってきた。
不思議な事に赤子はよく眠ると聞いていたのだが、この子はどういうことかあまり眠る気配を見せない。最初はその小さな体が疲れてしまうのではないかと心配したが、いたって彼女は元気そうだ。
そうした今でも彼女はソファの上で大人しく座っており、キュリオの姿が見えると嬉しそうに手を差しのばしてきた。
「ひとりにしてすまなかったね。寂しくなかったかい?」
小さな体を抱き上げると、彼女の柔らかな手の平を頬に感じる。キュリオはその感触を楽しむように己の頬をすり寄せていった。
「好きなだけ触れるといい…そして私の顔を覚えておくれ」
幸せそうなキュリオの微笑みをみた家臣や女官たちは、部屋の隅から二人の様子を微笑ましく見守っている。
やがてしばらく戯れていた二人は部屋をでて、中庭と移動しはじめた。
「お前に名前をつけてあげると約束していたね。私がつけてもいいかな?」
キュリオが少女の顔を覗きこむと、彼女は嬉しそうに笑っている。
「きゃぁっ」
(この声は…この子が喜んでいるときにあげる声だ…)
クスリと笑ったキュリオはあまりの愛しさに幼子の瞼に唇を押し当てた―――