狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
Ⅺ―ⅴ ヴァンパイアの王
その頃、悠久の王の書簡を受け取ったヴァンパイアの男は蝙蝠(ニュクテリス)のようなに皮膚が進化した黒い翼を広げ一点を目指していた。
やがて見えてきた巨大な古城がそびえ立つ丘にたどり着くと急降下し、城門の前へと降り立った。
いたるところに明かりが灯され、城周辺を行き交うヴァンパイアの数も多い。しかし、万年夜のこの国ではそれらの音を吸収するように無音に近い静寂が常に漂っている。彼らはこの静けさを心地よく感じているが…たったひとりだけそうではない男がいた。
門番の彼は迷うことなく古城の廊下を突き進み、大きなホールへと通じる扉の前に立った。ノックをしようと片手をあげるが、しばし考えた後…そのままノブを回し部屋の中へと足を踏み入れた。
そして真正面にある檀上へと視線をうつし、真紅の玉座に人の影を探す。が、彼が思ったとおりそこに人の姿はなく…かわりに広間の隅から姿を現したのは、王の相談役でもある大臣の"長老"と言われるヴァンパイアだった。
「…相棒はどうした?交代で飯でも食いにきたわけではなさそうじゃな?」
彼が手にした書簡を目にし、長老は穏やかな微笑みを向けてくる。
「長老、王はいずこにおられるか?」
「…気まぐれなお方じゃからなぁ…じゃが、外に出た様子はなかったからの。城の中にはいるだろうて…」
「了解した。探してみる」