狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
Ⅻ―ⅹ 己の小ささ
引きずられるように死の国の門から離されていくアレスとブラスト。カイは何とか震える足を踏みしめながら、ひとり気丈に彼らの後ろをついてくる。
「王様ってのは皆、ああなのか…?」
あまりの衝撃に顔を上げられずカイは足元を見つめながら口を開いた。するとテトラが振り向き、心配そうにカイの表情を伺った。
「キュリオ様だってそうさ…普段はそのお力を抑えておられるだけで、警戒したり力を使えばあれ以上のはずだ」
「あ、あれ以上…?」
(あの優しそうな王様が…)
カイは信じられないといったように動揺し、その不安そうな視線をさまよわせた。
やがて、だいぶ落ち着きを取り戻したブラストは肩を借りていた魔導師の青年に礼をいうと大きく深呼吸する。
「すまなかったな…俺が居ながらお前らに怖い思いをさせてしまった」
するとテトラに支えられていたアレスは立ち止まり、申し訳なさそうに目を伏せる教官へと向き直った。
「…いいえ教官、私のかわりに前にでてくださったではありませんか。私たちの盾になろうとしてくださった事、すぐにわかりました」
「そ、そうだぜ!おっさんっ!!殺されるかもしれねぇってのに…堂々としててかっこよかったぞ!!」
カイも教官のその頼もしい背中をずっと見ていたからこそ言えることだった。
(俺なんて…足が竦んで腰抜かして…ほんとバカみてぇ…)
小さいながらも戦わずして大敗を期したカイは、己の無力さに涙が溢れそうになる。
(俺は悠久の剣士だ…!あんくらいの化け物相手に戦う日が来るかもしれねぇんだっ!!ぜってぇ負けねぇぞっっ!!)
強く唇を噛む小さな剣士は自分の心と必死に戦っている。力の差を見せつけられた彼だからこそ、己に奢れることなくこの先大きな成長を遂げることになるのだった―――