狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅢ―ⅹ 花と名に込められた想い
(光を仰ぐ習性…私はあなただけを見つめる…か…)
「この花はなんと言ったかな…向…日、葵?」
うろ覚えで先代が地面に書いてくれた見慣れない字を懸命に思い出す。
(最後の文字がとても綺麗で深く心に残った印象がある…単体でアオイと読むのだと先代は言っていた…)
「アオイ…」
「…」
ボソリと呟かれたキュリオの言葉に動きをとめた赤ん坊。その様子に気付かないキュリオは彼女の体の向きを変え、自分の視線と合わせるように幼子の瞳をのぞきこんだ。
「…お前には日の光を浴びてあたりを照らしてくれるこの花のように育ってほしい。そして私は…ずっとお前を見つめているよ。お前の名前は"アオイ"だ」
「……っ」
黙ってキュリオの言葉に耳を傾けている少女。そしてその銀髪の王の言葉を最後まで聞くと…澄みきった小さな瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
(初めて私の前で涙を見せた…
君は何を思って泣いているんだろう…)
「…私たちはずっと一緒だよ」
優しい彼の指先が熱い目尻の涙をぬぐい去って行く。小さな彼女はキュリオにしがみ付くわけでもなく、ただただ涙を流している。
「お前の不安はすべて私が引き受ける…だからもっと私に甘えて」
昔聞いた二人の物語の結末はどうだったかわからない。ただ、その女性が彼の王へと託した想いもきっとこのようにあたたかで愛情に満ちたものだったに違いないとキュリオはそう確信した―――