狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅣ―ⅵ ヴァンパイアの王の返事Ⅰ
キュリオが光の精霊を見送っている頃、中庭で女官に抱かれているアオイは彼の出て行った庭園の入口をじっと見つめていた。
そしてその様子に気が付いた女官は…
「キュリオ様のお姿が見えないから不安なのね?大丈夫、すぐ戻って参りますよ」
優しく幼子の背中をポンポンと叩き、寂しさを紛らわせようと努める彼女。そして木の上からそんな二人の様子を見つめている紅の瞳。
彼は懐にしまった悠久の王からの書簡をそっと取り出した。
そこに赤ん坊の特徴が記されているが、目の前の赤子が同一人物とは限らない。
「いくら"慈悲の王"だからって出生不明のガキをわざわざ王が育てるなんてこと…今までなかったよな」
(…あのガキはキュリオの本当の子供か?)
彼の角度からフードをかぶっている赤ん坊の顔や髪の色は見えず、そして悠久の王に直接聞くほど仲が良いわけではないためすべて仮説となるばかりだった。
そんなことを考えているうちに、数人の家臣を引き連れているらしいキュリオの大きな気配がこちらに向かって動いていることに気が付く。
「もう戻ってきたか…」
おもむろに辺りを見回した彼は、視線の先にある城の上層階の一際美しいテラスに目を向けると…ふわりと枝を蹴り、この長い距離をあっというまに縮め、その部屋の手すりを乗り越えた。
トッ…
軽い身のこなしで着地した彼は、空いている窓から中の様子を探り人気(ひとけ)がないことを確認すると、窓辺に手をかけヒラリと舞うように室内へと侵入した。黒く艶やかな長い髪が風に揺れ、彼のまとう香りの中に別の香りが混ざる。
「…血の匂い?」
「この胸糞悪い感じはキュリオの血か…」