狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅣ 各国からの返事Ⅱ
ひとあし遅れて執務室へと到着した女官たちは、不機嫌そうなキュリオの様子に戸惑いながら入口で待機している。
「…お茶をお持ちしましょうか」
後方にいる若い侍女が気を利かせたように小声でつぶやくと他の侍女たちははっとしたように顔をあげ、声を発した彼女を捲し立てると急ぎ足で階段を降りて行ってしまった。最初の若い侍女は気を利かせたのだろうが、ともに連れ立っていった他の侍女たちはこの重苦しいキュリオの無言の苛立ちに居(い)た堪(たま)れなくなったに違いない。キュリオが不機嫌であることなど滅多にないため、皆どうしてよいかわからないのだ。
キュリオは執務用の椅子に腰をかけ、肘をつき右手の甲を頬に押し当てながらじっと外の風景を見つめている。風になびく美しい銀髪が頬をかすめるが、彼は気にした様子もなく…ただ膝の上にいる小さな少女を愛でるように左手だけがゆっくり動いていた。
彼の腹部あたりに顔を埋めて寝息を立てている幼子は、背をなでる彼のあたたかい手のひらに安心しきって穏やかな寝息を立てている。
「…使者が到着するのはもう間もなくか」
ポツリと呟かれたキュリオの声に手元の愛しいぬくもりがモゾモゾと小さく身じろぎしたが、どうやら目覚めたのではなく寝返りを打とうとして…諦めた。というような可愛らしい仕草だった。
「アオイ、この格好は苦しくないかい?」
「……」
完全に寝入っている彼女からの返答はなく、規則正しい寝息が聞こえるばかりだった。そしてキュリオの意識が幼子に向けられると無意識にその視線と彼を包む雰囲気はどこまでも柔らかく、愛情に満ちたものへと変化していく。
「長い時間連れまわして悪かったね。一緒に部屋に戻ろう」