狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅣ―ⅱ 残り二ヵ国Ⅱ
ギシ・・・
と、ベッドを軋ませ眠る幼子の傍らに横になり、彼女の頭を右手でそっと抱きしめる。すると、ふわりと香る甘いアオイの匂いが鼻をくすぐった。下にしている左手で、ゆるく握られている彼女の手を包み込むように握りしめ…
「…返事を聞くのが怖くなってきたよ」
夢見心地のままでこの先を過ごすのもいいかもしれない。知りたくない現実を突きつけられ、残りの時間を数えながら過ごす日々はどんなにつらいだろう。乗り越えたはずの人の命の儚さに…また素直に頷くことが出来なくなりそうなキュリオだった。
しばらくもやもやした気持ちを胸に抱え目を閉じているとわずかに日が傾き、部屋に差し込む光がにわかにオレンジ色に変わり始めた。胸元の幼子の頭上に手をついて、ゆっくり上半身を起こしたキュリオは、無言のまま髪をかきあげると窓辺に近づいた。
「あと数刻で夕暮れか…」
寂し気に呟かれたキュリオの言葉。
そしてこのあとすぐにアレスら五人の使者たちが悠久の門を通過したとの知らせが入るのだった―――――