狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅣ―ⅲ 残り二ヵ国Ⅲ
たそがれ)に染まりゆく悠久の空には森へと帰っていく鳥たちの姿がまばらに見受けられ、地を描くのは長く伸び始めた城の城壁の影たちだった。
見慣れた風景に変わらぬ風の匂い。今日もこの国は穏やかで争いの気配など微塵も感じず、平穏な一日の締めくくりにあとは夜の帳(とばり)を降ろすばかりとなっていた。
―――コンコン
静寂に包まれた室内に響いたのは、重厚な寝室の扉をノックする小さな音だった。
「入れ」
窓辺に立ったまま扉のほうを振り返るキュリオ。
「失礼いたしますぞキュリオ様」
一礼して入ってきたのはアレスの師である大魔導師のガーラントだった。
室内に足を踏み入れた彼はベッドの上で大人しく眠っているアオイに目を向けると・・・
「ほぉ…よく眠っておられる。本当に可愛らしい子ですなぁ…」
孫を見るような目で目元をほころばせるガーラント。そしてそのままキュリオの傍まで歩いてくると、意外そうな顔をして彼がキュリオの顔を伺うように首を傾げた。
「…楽しい時間をお過ごしになられたのかと思いましたが、我が王は浮かない顔をしておる」
「…ああ」
短く頷いたキュリオの言葉はそこで打ち切られ、小さくため息をついた彼は窓辺に寄りかかる。
いつもは美しく優雅なキュリオのその動作にさえ、今はどことなく気だるさを感じ大魔導師はこの銀髪の王の複雑な心の変化に気が付き始めていた。