狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅣ―ⅷ 使者の帰還Ⅲ
二人が神妙な話をしているのを小さな魔導師と剣士は耳を欹(そばだ)てて聞いている。
「なんだよ、また難しい話かよ…」
カイは話について行くことを諦めた様子で、深くため息をついている。
「そんなに難しい話かな?私も冥王殿の前ではひどく取り乱してしまったけれど、いま冷静に考えればブラスト教官と同じ考えだ。テトラ先輩の話にまでなると、どうだろう…って感じだけどね。さっきの一角獣(ユニコーン)の話、最後まで聞こえなかったな」
頭の良い魔導師の彼は、興味深そうに前の二人の話に夢中になっている様子だった。考える事をやめてしまったカイと、"あとで先生に聞いてみよう"と、しっかり記憶に留(とど)めたアレス。対照的な二人をさらに後ろから見ている魔導師の青年は(どうしてこうも魔導師と剣士の性格はいつの時代も変わらないのだろう)と笑いを堪えていた。
やがて五人がそれぞれ思考を巡らせているうちに、淡く輝く悠久の城が視界で確認できるほど近くに迫ってくる。
「よし!お前たちっ!!城に帰るまでが使者の勤めじゃないぞ!報告が終わるまでが使者の務めだからな!!」
背後を振り返りながら馬を走らせるブラスト。彼のその言葉に<革命の王>の言葉が重なり、はっとするカイ。
"立派な悠久の剣士になれ。役目を与えられて一人前というのではない。やり遂げてこそ一人前というものだ"
「ああ!わかってるぜ!!」
と、一際気合の入ったカイの声が暗がりはじめた悠久の空にこだまするのだった――――