狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩ―ⅵ 現れた精霊王・エクシスⅠ
出現した弓矢はゆっくり彼の手におさまると…より一層輝きを増していく―――
『…幼子(おさなご)よ…そなたは元の在るべき場所へ帰れ…』
『…そして…娘…二度と会うことはないだろう…』
一瞬振り返り、そう言い残した彼の瞳は美しい翡翠の色を宿していた。
流れるような動作で弓を引く青年…すると風が激しく吹き荒れ、金色の長い髪が美しくなびいた。
"…ありがとう…"
幼い声が控えめに響く。
『……』
そしてギリギリに張りつめた弦が音を立て、凝縮された光の粒子が炎のようにみなぎっている。
―――それはまるで闇を凌駕する光の咆哮だった―――
研ぎ澄まされた彼の鋭い眼光が狙いを定めた次の瞬間…光に包まれた一矢が暗闇の中心を貫いた―――
―――ゴォォォオッッ!!!!!
出現した光の竜巻が轟音と共に巨大化し、少女を取り巻く黒い水や闇が瞬く間に光に吸収されていく―――
―――その圧倒的な力の前に空間までもが歪み始める―――
"…いつかまた…"
幼い声が青年の耳をかすめ…少女の気配と共に光の中に溶け込んでいった。
『……』
やがて光が消え去り…無言のままその声と気配を見送った青年は、背にある翼を広げると…音もなく飛び立っていった。役目を果たした金色に輝く弓はいつの間にか消え去っている。
彼が飛び立ったその足元には、金色の羽が湖面をゆらしていた―――