狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩ―ⅹ 上位精霊・イフリート
精霊の国で放たれたキュリオのオーラ。
そして悪い予感は的中してしまう。
好戦的な炎の精霊たちが我先にと門へと集まり始めたのだ。
この時、門の外にたどり着いたガーラントと従者たちは迫りくる異様な力に身を構える。
「ガーラント様…この力は一体…」
「お主らは下がっておれ…」
その数はひとつやふたつではない。
明らかな殺意を抱いた無数の気配がどんどん近づいてくる。
『…門から離れなさい…』
突如響いた女性の声。
その声に敵意はないが…深い緊張の色がみてとれる。
「…どなたか知らぬが、了解じゃ」
ガーラントは後方にいる従者たちに目配せすると門から少しずつ離れていく。
『……』
光の精霊は門から離れていく人の気配に一安心すると、速度をあげてここを目指す炎の精霊たちへと意識を集中させた。
ほどなくして…至るところから湧いて出た炎の精霊たち。
そして不機嫌な声が浴びせられる。
『…まさかアンタ門番のつもり?』
『…悠久の犬にでも成り下がったわけ?…』
燃えさかる炎の塊が光の精霊を翻弄するように彼女の目の前をかすめていく。
『…悠久の王は我ら精霊王の友人…』
『…今宵はやむを得ぬ事情あってここで力を解放された…』
短い言葉にも関わらず彼女の発言には説得力があった。そして最初からほとんどの精霊はわかっていた。
なぜなら、発せられた悠久の王の輝きにはまったく敵意が感じられなかったからである。
『……』
無言が続く中、ひとつの煮えたぎったマグマのように巨大な劫火の塊が前に進み出た。
『…イフリート…』
光の精霊にわずかな動揺がみられる。
イフリートと呼ばれた彼は気性が荒く、精霊の中でも右に出る者がいないほどに強い。精霊が精霊を滅ぼす事は滅多にないが、それを彼は頻繁にやってのけるため、注意が必要なのだ。
『…光の精霊(ウィル・オー・ウィスプ)…滅されたくなくば門を開け…』
彼がそこにいるだけで後ずさりしてしまいそうな程に威圧感がある。
だが、彼女は怯むわけにはいかない。
『…笑止。我が王の意志に非ず…』
『……』
あくまで微動だにしない光の精霊に、イフリートは徐々に苛立ちをつのらせていった―――