狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩⅠ―ⅲ 目覚め
『……』
心配した光の精霊と水の精霊がキュリオの腕の中の赤子を覗き見る。
そして無言を貫く精霊王の表情からは何も読み取れない。
「…エクシス…」
落胆の色を隠せないキュリオは懇願するように彼との距離をさらに詰めた。
すると…
『…赤子を目覚めさせたいのであれば…』
『…ただ…呼びかければ済むことであろう?…』
「…違う、この子はいま…」
『…悠久の王、腕の中を…』
動揺する彼を安心させるように水の精霊が声をかけた。
『…赤子の顔に色が…』
光の精霊も安堵した声を発する。
まさか…とキュリオが腕の中を見つめると…
若干体の強張りが抜けていないが頬をピンク色に染め、浅く、そして規則正しく寝息を立てるアオイの寝顔があった―――
「…まさか…こんな事がっ…」
はらはらと落ちるキュリオの涙。愛しい幼子に頬を寄せると確かに感じる…変らぬアオイのぬくもり…
「…エクシス、もしかして君が…」
礼を言おうと顔を上げたキュリオだったが、そこに彼の姿はなかった。
そんなキュリオに優しい眼差しを向ける二人の精霊。
そこにお転婆(てんば)な風の精霊が大樹の葉を手に近づいてきた。
『…王からその子にって。』
「…あぁ、ありがとう」
大樹の葉を受け取ったキュリオはその上にのる清らかな露を見つめた。
そして疑う事なく、果実のようなアオイの唇の隙間に流し込む。
―――コク…
小さな音を立て、彼女の喉を通った大樹の露。
すると…大きく息を吸ったアオイは次の瞬間…
「……」
愛くるしい瞳を瞬かせ、涙を流すキュリオの姿をしっかりととらえたのだった―――