狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩⅧ―ⅰ ウィスタリアの恋Ⅰ
―――その頃、二階へと案内されたマゼンタとウィスタリアは中庭を一望できるテラスへとやってきていた。
…二人の前を先程から目まぐるしく動くのは数人の侍女たちだ。彼女らは急に訪れた客人のために別室から運び出したテーブルや椅子を次々に設置していく。そして目の前に広がるのは真っ白なレースのテーブルクロス。さらに…中心に置かれた銀の器には真紅の薔薇と霞草(カスミソウ)が飾られた。
おそらくキュリオの指示だ。
"祝いの席を設けるつもりはない"と言いながらも、端々に彼の優しさを感じる。
「まぁっ!なんて美しい薔薇なの…きっとこの庭園に咲いていた花だわ!」
(キュリオ様…どこか変わられた気がする…ううん。変わってしまったのは私…?)
マゼンタは声をあげて素直に喜んでいたが、ウィスタリアの表情はどこか晴れない。すると思い出したようにマゼンタがポンと両手を合わせ、隣の彼女を見上げる。
「…そうだっ!ねぇ、ウィスタリア!さっきのキュリオ様の御召し物見た?」
「…え…?御召し物…?」