狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩⅧ―ⅹ マゼンタの目論見(もくろみ)Ⅲ
「これじゃあ…スカーレットに馬鹿にされてしまうわ…」
侍女に案内され、手洗い場へとやってきたマゼンタ。敷き詰められた大理石は傷ひとつない鏡のように美しく磨かれており、その場を取り囲むのは浄化効果のある清らかな水たちだった。そして時折、甘い香りのする花びらが流れ…気落ちした彼女の心を癒していくように足元を流れていく。
顔を洗おうと水を出し…目の前のおしゃれな銀縁の鏡を覗き込みながら、次女のスカーレットの名を真っ先に口にした彼女。なぜその名を出したのかというと…スカーレットは嫌味を言うような人間ではないが、思っている事をそのまま言葉にしてしまうため…たびたび一番幼いマゼンタと衝突してしまうのだった。
『ざまぁねぇなマゼンタ!!キュリオ様ンとこで泥遊びでもしてきたのかよっ!?』
「…ぅー…っど、どうしよ…」
今にも聞こえてきそうなスカーレットの嘲笑いに頭を抱えるマゼンタ。ちょっと背伸びしてウィスタリアにお願いした大人っぽい化粧も…顔が汚れてしまったせいで特殊メイクのように悲惨な事になってしまっている。
「…大げさ過ぎたかな、鼻水もでてるし…」
(我ながら迫真の演技っっっ!!!)
と内心ガッツポーズを取りたいくらいだが…
あのキュリオの瞳は本気で呆れているような…蔑(さげす)みを含んだ眼差しだった。
「…っ…」
じわりと流れた涙とともに…胸の痛みが心をぼろぼろにしていく…。ウィスタリアは王であるキュリオを心から愛している…しかし、幼いマゼンタも彼女に負けないくらい…その小さな胸にキュリオへの愛を強く想い抱いていた…
「…っやんなっちゃうな…っ…何がただしかったんだ…ろ…っ…」
膝を抱えてしゃがみこんでしまったマゼンタ。
すると…濡れた顔と、飛沫(しぶき)を受けた顔まわりの髪がうっとおしく頬にはりついて…それが水なのか涙なのかわからないほどに彼女は泣いていた―――