狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩⅨ 最後のチャンス
(マゼンタ…私のために…)
マゼンタの優しさに気が付いたウィスタリアは、心を痛めながらも…彼女の行為を無駄にしないために目の前のキュリオを真剣な眼差しで見つめていた。
しかし…マゼンタの一件から、彼はさらに不機嫌さをあらわにし…眉間に深い皺が寄ってしまっている。
(…ここで逃げていたらいつもと変わらない…)
穏やかな笑みを称え、いつの時も歪みのない美しさと輝きを放つこの王はウィスタリアを気に留める様子もなく…何十年も笑顔のまま、その横を通り過ぎていった。
そして彼を見つめ続けた彼女はいつしか少女から大人の女性へと成長し、報われぬ想いと体だけが彼女の意志を無視して歳月を重ねていく…。
(…私はマゼンタのように若くはない…きっとこれが最後の…)
「…っ」
ウィスタリアの心に焦りと不安が交差し、彼女は震える手をごまかすためにドレスの裾を力いっぱい握りしめた。
そして…
「あ、あの…っ!キュリオ様…っ!!」
「…なんだい?ウィスタリア…」
唐突に名を呼ばれ、言葉を返したキュリオだが…その声にはまったく親しみが感じられず、すでに拒絶の意を表しているかのようだった―――