狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

ⅩⅩⅩ―ⅰ 異物の排除Ⅰ




女官は腕の中の小さな姫へと視線をうつした。



「……?」



不安に揺れる女官眼差しに…幼いアオイは小首をかしげるように瞳を丸くしている。



「姫様…」



女官は純粋無垢な赤子を見つめ…彼女を守るためにも己の直感を信じる事にした。



「キュリオ様がお呼びというのであれば、私は行かないわけには参りません。ですが…」



「…なぁに?」



ウィスタリアの微笑みは崩れず、穏やかな眼差しをこちらに向けている。



「…大事な姫様をウィスタリア様にお預けすることも出来ませんので、このままキュリオ様の元へ向かいます」



聡明な女官の判断は懸命だった。これほどまでに幼い姫を大事にしているキュリオが、数年に一度顔を合わせる程度の知り合いへと彼女を任せるはずがないと思ったからだ。



「…では失礼いたします」



きっぱりと断り、アオイを抱えた女官が退室しようとウィスタリアに背を向けると…



「…そう…」



背筋がゾクリとするような声が響いた。






―――コト…






すると扉に手をかけた女官が、小さな物音に思わず振り向くと…



手元にあったガラスの花瓶を振り上げたウィスタリアの悍(おぞ)ましい形相が視界に飛び込んできたのだった―――





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