狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩⅩ―ⅱ 異物の排除Ⅱ
「…はぁ…はぁっ…ふふっ…」
ウィスタリアは目の前の光景に満足するかのように不気味な笑みを浮かべ…その瞳には妖しい光が宿っていた。
彼女の足元に倒れているのは…とっさにアオイを庇(かば)い、頭部に人が耐えうる凄まじい衝撃を受けた血まみれの女官だった。
割れた花瓶と女官のすぐ向こうには、彼女が必死に守ろうとした幼い赤子が瞳をぎゅっと閉じて…背中から落ちたのだろうか…苦痛に顔を歪ませている痛々しい姿がある。
「…ぅっ…ひっく…」
そして…怯えるような幼子のしゃくりあげる声が室内に響く。
「…ようやく二人きりになれたわね…」
視線の温度を下げたウィスタリアが赤子に近づくと…ピタ、と彼女は躊躇うように足を止めた。
「赤い涙…?」
…一瞬、嫌な予感に胸をざわつかせたが…
それは飛び散った花瓶の破片が彼女の目尻を掠り、血をにじませた傷の上を涙が通過したからだとわかり安堵の息を漏らす。