狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩⅩ―ⅲ 異物の排除Ⅲ
「…っ…」
こぼれる涙を堪えようと…赤子は必至に声を我慢している。
しかし…己を見下す恐ろしい女の形相に…アオイの小さな体は恐怖に震えてしまう…。そしてはっとした幼子は自分を庇ってくれた優しい女官の姿を探した。
「…っ!!」
やがて大きく目を見開いたアオイの目先には…赤黒い血の海に横たわる蒼白の彼女の姿があった―――
「…ぅ…ぁぁっぅ…っっ!!」
女官に手を伸ばし…必死に呼びかけるような赤子の声がウィスタリアの精神を刺激する。
「…なぁに?人の心配してる場合かしら…?」
―――パキ…
花瓶の破片の上を靴で踏み鳴らし…ウィスタリアは無抵抗の赤子を両手で抱え上げた。
「…まぁ本当に憎らしいくらい可愛い…貴方がキュリオ様のお姫様ね?…」
憎悪にまみれたウィスタリアの瞳はもはや正気を失い、女神の気品や気高さなど微塵も感じない…。そして…両腕を高く上げた彼女。
「…二度とキュリオ様に微笑んでもらえないように…その可愛い顔から破片の上に落としてあげましょうね」
「…ぅっ…ふぇ…」
(…ごめんなさい…わたしの…せいで…)
この状況下でも幼子は自分を庇った血まみれの女官を想い…心の痛みが大粒の涙となって頬を伝った…。