狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅩⅩ―ⅸ 異物の排除Ⅸ
―――かつて人間を捕食していたという恐ろしいヴァンパイア―――
怯え…尻込みした彼女だが…ウィスタリアはここが悠久で一番安全なキュリオの城だということを思い出す。
すると…とたんに勝ち誇ったように大きな態度にではじめた。
「…ふん…よく昼間にノコノコ出て来れたものね…ヴァンパイアなんて夜にしか現れないものだと思っていたわ」
「……」
青年は何も答えない。
それどころか、彼の興味は目の前のアオイに向けられている。
「…書簡にあった内容忘れちまったな。あれってやっぱお前の事なのか?それとも…」
ソファに寝そべるように体勢を崩した男は、赤子の両脇に手を添え持ち上げると…己の腹部に股がらせ彼女の体を支えた。
「…キュリオに…似てねぇよな…」
「…んぅっ」
青年は指先で彼女の頬をなでる。
すると気持ちよさそうに一瞬目を細めたアオイだが…目元の傷が思ったより深く、濡れた血が光を反射し艶やかな色合いを見せていた。
痛みに顔を歪めた彼女だが、はっとしたように我に返り…激しく手足をバタつかせはじめた。
「…っ!!」
「ん?なんだ急に…」
眉間に皺を寄せた青年は、大きな瞳を潤ませた彼女の表情からひとつの頼みごとを読み取った。
ポロポロと零れてくる涙と…必死に青年の腹部にしがみつく小さな手…
「…ぅっ…ひっく…」