狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXII―ⅰ 揺れる心Ⅰ
「…ほんと食えないやつだぜ…」
『ふふっ…よく言われるよ』
アオイを盾に取られてしまってはティーダにはどうすることも出来ない。本来、キュリオの娘の可能性が大きいこの幼子ならば生き死になど問わないはずなのだが…
「俺は獲物を横取りされるのが大嫌いだ」
「もちろんマダラ…お前が相手でもな」
ギロリと睨んだ足元から肩をすくめるようなマダラの声が響く。
『…そこまでいうなら唾でもつけておきなよ』
「…唾?あぁ、その心配はいらないぜ」
ティーダはグッと腕に力を込め、大鎌をどかすと…小さく震えるアオイの体を影響のない床の上にそっと座らせる。
「…ここ、ちゃんと治してもらえよ?」
アオイに言い聞かせるように爪のはらで目元をなぞる。
「まぁ…傷痕(きずあと)が残っちまったら…」
「お前は俺がもらってやる。心配するな」
「…?」
もちろん言葉が理解できないアオイは小首をかしげるばかりだ。そんなアオイの様子をふっと笑い穏やかな表情を向けるティーダ。
「…またな」
名残惜しそうに長い爪を幼子の肌から離すと、大鎌に捉えられた彼の体は奇妙な靄とともに床の中へと沈んでいってしまったのだった―――