狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXII―ⅸ 揺れる心Ⅸ
「ガーラント…何も心配することはない。私が彼女の手足になれば済む話だ」
いつものように中庭で花を眺めながら歩いているキュリオだが、彼の視線はここ最近ずっと何をするにでも腕の中の幼子を見つめたままだ。
以前にも増して彼女への執着が強まったこの美しい王に対し、大魔導師は少なからず危機感を覚えていた。
「キュリオ様…それはまっとうな考えではございませぬ。こうしていられるのも姫様がまだ赤子だからこそ。子供の成長は早いですぞ?アオイ様もそのうち一人でお歩きになられる」
「…アオイが歩もうとするのを私は妨げるつもりはない。ただ…」
「彼女に危害が及ばぬよう…私がずっと傍にいて守ってやりたいだけさ」
そう言ったキュリオは数日前に深く傷ついた幼子の目元を優しく指先でなぞった。彼の力によりアオイの傷はすぐに癒され、傷跡も痛みさえも完全に消え失せていた。
キュリオの腕の中、目元をなぞられたアオイは彼の上着をきゅっと握り…大きな瞳を何度も瞬かせている。
「ウィスタリア殿の件…姫様は本当にお気の毒でしたが…もはやそのような事はこの悠久の城で起きることもないはずですじゃ」
「…だといいのだがな…」
女官の証言によりウィスタリアの行動に問題があったことは明らかだ。しかし…ヴァンパイアの王がそこにいたのもまた事実。キュリオはどうしたら良いものかと柔らかなアオイの髪をそっと撫でた。
(ティーダ…貴様は一体何が目的なんだ…)