狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXIII―ⅴ 鍛冶屋(スィデラス)・ダルドⅤ
「…武器じゃないんだ?」
思いがけない言葉にダルドは狐耳をピクリと動かし、目を丸くして聞き返した。
「はい。キュリオ様の大事な方への贈り物でございます」
目元をほころばせた彼らの雰囲気から、贈られる側の…おそらく女性である彼女の人物像が垣間見えた気がする。
「わかった。熟練の剣士・魔導師の物じゃなければそんなに時間はかからない」
一度奥の部屋へと消えたダルドは分厚い魔導書といくつかの鉱物に古木、そして…とっておきのピンク色が美しい輝きを放つ小さな水晶を取り出してきた。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
バサッと羽織ったダルドの外套には銀細工のブローチがついている。これはキュリオが彼に直々に手渡した、城の外に住まいながらも自由に城への出入りを許されている者の証なのだ。
彼は数人の家臣に誘導され気品あふれる一頭の馬へと跨り、手綱を引いた。
(本当は僕が走ったほうが速いかもしれないけど…)
クスリと笑みを浮かべながら内心本音をもらしたダルドだが、こうしてひとりの人間として扱ってくれるキュリオの心遣いが嬉しくもあったのだった―――