狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅥ―ⅶ キュリオとダルドの出会いⅦ
雨煙が漂い、頬に感じる冷気が一層鋭さを増すなか…やがて姿をあらわしたのは…
「ダルド、あれが私の家だ」
「家…あれがキュリオの…」
まるで月の光を宿したかのような優しい光を発する巨大な城が徐々に視界に広がりはじめた。
「ここには私以外の人間もたくさん住んでいるんだ」
「…キュ、キュリオ以外の…っ人間、が…?」
急激に気落ちたダルドの耳は、またも怯えたように垂れ下がってしまい…銀色の瞳は戸惑うように揺れ動いている。
「変わり者が多いが、心配はいらない。皆快く君を受け入れてくれるさ」
それもそのはず、キュリオの意志に反する者は城仕えを許されるわけがなく…主(あるじ)である彼の信頼と信用を得た者ばかりが揃っているからだ。
「…う、うん…」
(…キュリオの、家族もいるのかな…)
今まで野生の銀狐(シルバーフォックス)だったダルドには王に対する知識があまりない。
まさか自分が生きてる間その王と巡り合うとは夢にも思わず、どこか現実味のない雲の上の存在だと思っていたからだ。
「そろそろ降りようと思うのだが…心の準備は整っているかい?」
ダルドの顔を覗き込む、キュリオの美しい空色の瞳が気遣うように優しいまなざしを向けてくる。
「…整っている、と思う…」
ぎこちなく答えたダルドは緊張からか、わずかに体を強張らせ…眼下に広がるキュリオの"家"を期待と不安が入り混じる複雑な想いで見つめていたのだった―――