狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅦ―ⅳ 姿を消したダルドⅣ
すでにここへたどり着く前、彼女は付近の家臣や女官たちへダルドの姿が中庭にないか声をあげていたらしい。
広間をでたキュリオの目の前を数人の女官たちが慌ただしく通り過ぎて行く。
(…私とした事が…先に彼の不安を取り除いてやるべきだった…)
「…も、申し訳ございませんっ!!キュリオ様!!」
蒼白になりながら深く頭をさげる侍女。ダルドの世話を頼まれた彼女はこうした事態にひどく責任を感じているようだった。
「いや…君のせいじゃない、私の責任だ。彼への配慮が足りなかった」
彼を探そうと城の入り口に足を向けたキュリオの元に…正面から家臣の一人が足早に近づいてきた。
「キュリオ様!中庭はおろか…城の敷地にもダルド様のお姿はすでにない模様です!」
「そうか…」
キュリオの視線はふと、家臣の腰にある剣へと向けられる。
「森を探しますか?」
王の命令を待ち、数人の家臣たちが馬をつれて入口に待機している姿が見えた。
「…私が行こう。他の者は皆、城で待機せよ」
「はっ!!」
(銀狐の生息地は…たしか、北の大地だったな)
城の入り口まで出てみると、先ほどまで振り続いていた雨もようやくあがり…空には銀色に輝く美しい月が悠久の大地を照らしている。
「…彼の心にこの月の光は届いているだろうか…」
ポツリと呟いたキュリオは、ダルドの心がまた冷たい雨の夜を繰り返しているのではと心配していた。
そして…一度は開かれたと思った彼の心の扉が閉じてしまわないためにも、ダルドを見捨てるわけにはいかないキュリオだった―――