狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅦ―ⅴ ダルド・狭き世界の中でⅠ
ダルドは着替え用にと出されていたバスローブをその身に纏い、裸足のまま故郷の大地を目指して歩き続けた。
(これが人間の毛皮…?)
ふわふわな銀狐の毛には及ばないにしても、柔軟な肌触りが心地良い事は違いなかった。
しかし、草を踏みしめるダルドの足の裏には冷たい雨露がじっとりとまみれている。せっかく湯で温まった彼の体は、冷えてしまった心のようにぬくもりを失っていく。
とぼとぼと歩き続けるダルドは、足元にまとわりつく己の影に気が付き空を見上げた。
「…月だ…」
「僕…どうしてこんなに遠くまで来ちゃったんだっけ…」
かすかに残る仲間たちとの懐かしい記憶に想いを馳せるダルド。
―――…銀色の狐たちが、夜空から降り注ぐ月の光を道しるべに北の大地を駆け抜ける凛々しい姿がある。
その中を共に風をきって走るのは…まだ小さな子狐のダルドだ。
懸命に彼らのスピードについて行こうと、ダルドは息を弾ませ小川を勢いよく飛び越えていく。
しばらくすると小さなダルドの手足は疲れ、徐々に重くなりつつあるが…周りを見渡せば楽しそうに笑い、どこかを目指す仲間たちの明るい声と笑顔に足取りは軽くなる。
『大丈夫か?ダルド!』
『う、うんっ!』
先頭を駆ける二回りほど大きな銀狐が後ろのダルドを振り返り、仲間へ速度を抑えるよう呼びかけてくれた。
『ちっ…また子狐のダルドか…』
すると、仲間内の誰かが不機嫌そうに舌打ちするのが聞こえてきた。