狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅦ―ⅵ ダルド・狭き世界の中でⅡ
それからしばらく進んだあと、清流の傍で体を休める銀狐の群れの姿がある。
手足が若干黒みがかった先程の彼がダルドを気遣うように傍に腰を落ち着けてきた。
『ごめん僕のせいでっ…』
居た堪れなくなったダルドは群れから少し離れた岩の上にいた。
『…皆待ち遠しいんだ』
そう言いながら首を持ち上げた強い彼は敵から群れを守るように、休息中にも周りへと目を光らせている。
『待ち遠しい…?』
『俺たちの知らないこの北の大地の遥か向こう…その先を見てみたいのさ』
『…?その先には何があるの?』
『ははっ!何があるかわからないからこそ俺たちは行くんだ。この広い悠久の地を自分の目で確かめたいんだ』
勇ましく低い声を響かせ、他のどの狐たちよりも美しく体の大きな彼が楽しそうに笑っている。
『…怖い敵がいたとしても?』
『当たり前だ』
迷いなく断言する彼はやはりかっこいい。
そしてそんな彼に比べ、気持ちも体も小さいダルドは不安そうに俯いてしまった。
『…僕は君のように強くないから、怖いよ…』
『いいかダルド。自分が戦えないなら…守ってくれるやつの力になればいい』
『…力に…?』
『そうだ。どんなに強くとも一人で生きていく事は不可能だ。
…そして命には限りがある。だからこそ俺たちは走り続ける』