狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅦ―ⅷ ダルド・狭き世界の中でⅣ
そして南下を繰り返していたダルドたちの群れは、いつの日か銀狐が生息していないところまで来ていた。
そのためか、仲間たちは増える事なく…減り続けていく一方だった。
『お前は不思議だな…まるで時の流れに逆らっているかのように若いままだ…』
優しい笑顔を向けてくれた彼だが、その眼差しには羨むような…どこか寂しさを含んだ色が入り混じっていた。
自分の身がいつまでも若いままである事をあまり気に留めていなかったダルドだが、徐々に弱り始めた彼の姿を見るたびに不安が芽生えてくる。
『…僕ひとりになりたくない。君と一緒にここに残るよ』
ある程度の大きさだった彼らの群れも、今ではたった二頭のみになってしまった。
そして…もう走ることが出来なくなった彼の傍に寄り添うようにダルドは腰をおろした。
『…だめだ…お前はこのまま走り続けろ…』
長い年月走り続けた彼の逞しい足腰も、いまは痩せ細り…もうこの山を越えることは出来ないであろうことは予測できた。
『…ううん。僕は遠くに来たかったわけじゃない。皆と、君と走るのが楽しかったから今までついてきたんだ』
ダルドは年老いた彼を労わるように鼻先で彼の体を優しくなでる。
『……』
そんなダルドの言葉に彼は何も言わない。
『それに…もう仲間は君しかいない。このまま進んでも僕はずっと一人だ…』
すると黙っていた彼がやっと口を開いた。
『…馬鹿だな。お前はこの悠久を知らな過ぎる…。その眼差しを外へ向けろ…それに…』
『…仲間は、作るものだ…お前を理解、してくれるやつが…必ず…い、る…』
『僕のこんな体、気持ち悪いだけだよ。きっと誰にも…』
『…まだ何も知らない子狐のくせに…今から諦めて、どう…する…
この悠久…の、王のことも…知らないんだろう?』
『…悠久の王…?』
『…この大地を、いつも覆っている…偉大な気配に気が付かないとは…やっぱりお前は子狐のダルドだな…』
ほんの少し意地悪く言葉を発した彼だが、それが嫌味ではなく…面倒見のよい彼が見せる大きな愛だとわかる。
今さらに彼の存在の大きさに気付き、知らず知らずのうちに熱い涙が頬を伝った。
『そうだよ…僕は子狐のダルドだから、君と一緒じゃなきゃ走れないんだ…っ…』