狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅦ―ⅸ ダルド・狭き世界の中でⅤ
『…俺の、俺たちの夢と共に走れ…お前がすべき事を、この広い世界で…見つけてみろ……』
自分の夢をダルドに託した彼は、ダルドを心配するような優しい微笑みを浮かべながら…それから間もなく駆け抜けたその生涯に幕を下ろした。
夢を抱き続け、常にダルドの前を行く立派な彼の最後の言葉を今でも覚えている。
そしてダルドはずっと考えていた。
(…彼がこの体だったらどんなに幸せだったろう…)
夢にあふれた立派な彼ならば、きっともっと素晴らしい人生を送っていたはずだ。
各地を旅し、心から信頼できる仲間たちもたくさん出来たに違いない。
「何もしないで北の大地へ戻ってきたって知ったら…君は僕を笑う、かな…」
切なく、あたたかな思い出にダルドの目頭はどんどん熱くなっていく。
「帰ろう…僕の故郷へ…」
ゴシゴシとバスローブの袖で目元をこすり顔を上げた。
と…
―――ヒュッ
風を切り裂く音が響き、ダルドの真っ白な頬を何かが勢いよく通り抜けていった。
「…え?」
通り過ぎた方向へ目を向けると、何かが突きたてられているのが見える。
疑問に思ったダルドは近づき、その正体を知ると…ゾクリと嫌な汗が流れ、青ざめていく。
ダルドの瞳にうつったそれは…猟師(キニゴス)が持っていた矢と全く同じものだったからである。
やがて頬に感じた違和感は熱を帯び…
「なに…これ…っ…」
ガクっと体中から力が抜けて…ダルドは勢いよく片膝をついた。
ドクドクと危険を知らせる鼓動が高鳴り、自由を失った彼の体はそのまま崩れるように冷たい大地へ倒れこんでしまった。
「…体がっ…」
必死に立ち上がろうと手足に力を込めるがただその身は震え、ダルドの呼吸は徐々に荒くなっていく。
「おっと…無理に動こうとするなよ?その矢には弱い毒が塗ってあるからな」
「…なるほどこいつは上玉だ。仲間を犠牲にしてまでお前を追いかけて正解だったぜ」
あまりにも冷たく、欲望に満ちた男の声が響き…ダルドの五感はこれ以上にない命の危機を叫んでいた…