狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅦ―ⅹ ダルド・広き世界の中でⅠ
「…仲間を…ぎ…せい、に…して…?」
虚ろなダルドは信じられないと言ったように男の言葉を繰り返した。
「まさか王が現れるとは思ってもみなかったからな…一応聞いておく」
「てめぇ…キュリオ王の何だ?」
現れた巨体の男はダルドの白銀の髪を乱暴に片手でつかみ、彼の喉元に鋭い短剣を突きたてた。
「…っ…ぼ、ぼくは…ただの…銀、…」
ダルドが弱々しく言い終える前に、まばゆい光が一閃―――
「…な、なにっっ!?」
…音はなかった。
ただ…物凄い速さで光が駆け抜けた次の瞬間…猟師(キニゴス)の巨体は勢いよく後方の岩へと吹き飛び、その身を激しく打ち付けたのだった。
「彼は私の友人だ」
真っ白な翼を広げ、ダルドの前に舞い降りたキュリオ。
彼の手には銀色に輝く美しい剣がしっかりと握られており、命をもったひとつの塊のように小さな振動を何度も繰り返している。
(キュリオも…武器を持っているんだ…)
わずかに影を落としたダルドの心。
どこか期待していた、彼は他と違うというほのかな想いがバラバラに砕けてしまった。
「…キュ…リオ…」
「ダルド、私は君に謝らなくてはならない。先に誤解を解く必要があった…」
「…誤解?…」
剣を置き、跪いたキュリオは横たわるダルドの身をゆっくり抱きおこす。
彼からあふれ出る優しい光が…ダルドの体に流れ込んだ猟師(キニゴス)の毒を浄化し、癒していく。
「君が怖がる武器…それは使い手によって大きく違うのだと説明するべきだった」
そう話すキュリオは慈悲の光にあふれ…とても美しい。まるで聖母のような大きな心と強い信念を感じた。
「で、でも…武器はどれも同じ…だと、思う」
体が軽くなっていくにつれ、自由がきくようになったダルドはキュリオの腕の中から気絶した猟師(キニゴス)の巨体へと視線をうつす。
「…キュリオの剣だって…」
しかし…あれだけ激しく打ち付けられた巨体の猟師(キニゴス)から血は流れておらず、傷を負ってないことがわかった。
「彼を直接斬りつけたわけじゃない。あれは剣圧によるものさ」
実際、王の持つ神剣がどれ程の力を秘めているか…まだ最大の力を発揮したことのないキュリオにもわからない。その力を使うとしたら…
―――国を巻き込んだ王同士の戦い―――
ましてや罪人とはいえ、本来悠久の民に向けるような代物ではない。
それほど神剣の力は強大で、五大国それぞれの王が持つ神具にも同じことが言えるのだ。
「私の剣も、城に仕える男たちがもつ刃もすべて…弱き者を守るために存在しているものなんだ」
「…弱き者をっ…守る、ための…」
目を見開き、かつて信頼していた仲間の言葉を想い返す。
『いいかダルド。自分が戦えないなら…守ってくれるやつの力になればいい』
(…君が言っていたのは…きっとこの事なんだね)
若くして広い視野を持っていた彼が今さらに凄いのだと実感する。
『今頃気づいたか?やっぱりお前は子狐のダルドだなっ!』
…その彼がキュリオの背後で優しく微笑んだ気がした。
「見つけた…僕のやるべき事…」
「僕は戦えない…だからキュリオと、皆を支えられる男に…なる」