狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅧ―ⅴ アレスの役目Ⅱ
「…私には娘がいる。もちろん血の繋がりはない女の赤子だ」
「彼女を見つけたのは聖獣の森だ。
そして調査の結果…彼女の肉親が悠久に存在しないことがわかった。そこで君たちに使者として届けてもらった書簡があっただろう?あれは彼女の出生を調べるため他国に出した協力要請だったのさ」
(聖獣の森…僕は彼らと言葉を交わすことが出来るのだろうか…手がかりを…)
ダルドは人型聖獣であるため、何とか出来そうな予感が脳裏を掠めていく。しかし、彼は聖獣という概念より人間として生きている。そのため一度も聖獣に近づいたり、言葉を交わしたことがないのだった。
「そうだったんですね…」
そしてダルドの目の前に座るアレスは納得したように小さく頷いている。
どんなにガーラントに問うたところで口を割らなかった理由がこれだ。もし、その赤子がどこの国の者かもわからないとあれば…彼女は将来、心なき民たちにひどい仕打ちを受ける可能性があったのだ。
そしてキュリオはすでにその赤子を"娘"と呼んでいる。
おそらく…彼女の肉親は現れなかったか、出生不明で終わったに違いない。
キュリオの大きな慈悲の心が垣間見え、ロイ同様アレスは今更に尊敬の眼差しでキュリオを見つめた。さらにこの世界にはヴァンパイアという種族が存在している。悠久を苦しめたというあの忌まわしい存在だ。
(…キュリオ様はやっぱり凄い。普通なら恐れられるかもしれない存在に愛を…)
「聡明な二人ならば…もうおおよその察しはついただろう?」
ダルドとアレスはキュリオの真剣なまなざしを受け、小さく頷いた―――