狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅨ―ⅰ 整いゆく準備Ⅰ
―――キィ…
「アオイ姫様、一度ご試着願いたいのですが」
仕立屋(ラプティス)のロイが仮縫いを終え、広間で待つキュリオとアオイの元へと再び姿を現した。
「ロイ。アオイが服を着ている間、君はすこし息抜きをしてはどうかな?」
「…キュリオ様。そうですね、では少しだけ…」
あまりに夢中になりすぎて時間が経つのも忘れていたロイは、やや日が傾き始めた窓の外を見て照れたように笑った。
「では姫様のお着替えをしてまいりますね」
「はい、ではお願いします」
そしてにこやかに近づいてきた侍女へ仮縫いの終わった衣装を渡すとロイはキュリオの待つテーブルを囲むように腰をおろした。
するとすぐに運ばれてきた爽やかなお茶の香りと、目の前にあるキュリオの優しい微笑みを堪能するようにロイは深呼吸を繰り返す。
その様子を目にしたキュリオは…
「疲れたかい?」
「だっ、大丈夫です!!お茶の香りがすごく好みだったものですからっ!!」
慌てて首を横に振ったロイに、気遣わしげな表情を浮かべるキュリオ。
「気に入ってもらえてよかった。君の部屋も用意してあるから今夜はゆっくり休んでいくといい」
「ありがとうございますキュリオ様…あの、他の方もどなたかいらっしゃってるんですか?」
「あぁ、ダルドが来ているよ。今は森のほうに出ているけどね」
「鍛冶屋(スィデラス)のダルド様でございますか…?」
彼の名を聞き、驚いたように目を見開くロイ。
そういうのも"鍛冶屋(スィデラス)のダルド"は仕事を選ぶため、誰にでも武器を生成してくれるわけではないのだ。つまり彼は良しとしない相手の前に現れることはなく、多くの者はダルドの名を知っていてもその姿までは知らぬのだった。
「そうさ。夕食の席でおそらく顔を合わせる事になると思うから親睦を深めるにも良い機会かもしれない」
「…は、はいっ!!」
身が引き締まる思いのロイは心を落ち着けさせようと、香りのよい紅茶を一気に飲み干した。
そして尚も微笑み続けるキュリオの背後から侍女の声がかかり…
「お待たせいたしました」
仮縫いのドレスを身に纏った可愛らしい幼子が姿を現したのだった―――