狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅨ―ⅱ 整いゆく準備Ⅱ
「…あぁ…」
侍女の声に振り返ったキュリオは感激のため息をそっともらした。
待ちきれぬ様子で立ち上がり、アオイを早々に受け取ったキュリオは幼子に見惚れたように熱いまなざしを注いでいる。
仮縫いどまりの未完成なドレスだが、彼女の柔らかい雰囲気にとても合い…まるで天使の羽をその身に纏っているかのような可愛らしく優しいものだった。
「素晴らしいよ…ロイ」
夢見心地でアオイを見つめるキュリオは愛しい娘を腕に抱き、いつも期待以上の仕事をしてくれる仕立屋(ラプティス)のロイへと視線を戻した。
「恐れ入りますキュリオ様…本当にお美しい姫君だ」
「きゃぁっ」
「ふふ、アオイも喜んでいる」
頬をピンク色に染めて上機嫌な声を上げるアオイ。
着飾る楽しさをおそらく理解している様子の彼女はやはり小さくとも女性だとキュリオは思わずにいられない。
「袖の辺りが少し長い気がしますね、調節いたしましょう」
「そのようだね。彼女が小さいこの時期にしか着れないとは…本当にもったいない代物だ」
子供の成長は早い。
これから先、アオイが身に纏う服すべては…彼女の成長と愛しい記憶とともに一着、一着がキュリオの想いの欠片となっていくだろう。
「そう言っていただけてこのドレスも本望だと思います。わ、私でよろしければ…いつでもアオイ様の服を仕立てに参ります!」
「嬉しいよ、ありがとうロイ。是非お願いしたい」
こうしてこれから成長していくアオイの私服のほとんどは仕立屋(ラプティス)のロイが手掛けたものが多くなっていく。ロイは彼女の魅力を十分に発揮しキュリオがイメージする以上のものを形に出来るため、王のお気に入りとなった彼はたびたび城に出入りしている様子が見られるようになるのだった―――