狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
XXXⅨ―ⅲ 整いゆく準備Ⅲ
再び隣りの部屋へとこもり始めたロイ。キュリオはアオイを膝の上に座らせながら向かい合い、穏やかに話し始める。
「ロイに頼んでお揃いの上着を誂(あつら)えてもらおうか」
全く同じデザインである必要はなく、仕様する布や飾りに共通するものがあればそれだけでキュリオは満足だ。
「んきゃぁっ」
すると、嬉しそうに手足をバタバタさせるアオイ。
今まで誰かと同じものを…などと考えた事のないキュリオは、アオイとの幸せな日々を楽しむようにたくさんの思考をめぐらせているのだった―――
清流にてダルドがカイの剣を磨いている頃…
―――キュァァア
新たな命を誕生させた魔導書がまばゆい光をたたえ…上品な産声をあげた。
「…アレスの武器…」
磨き終わったカイの剣を鞘にしまい、魔導書におさめようとページを開く。すると…魔方陣の中から光の鎖のようなものが現れ、まるで子供をその懐に抱きしめようとする母親の手のように優しく剣を包み吸収されていく。
光が消えると空白だった陣の中心には剣の紋様があらわれ、彼の武器がそこにあるのだとわかる。
魔導書のページをさらにめくり、完成した杖の魔方陣を開く。
―――ザァアアア
やがてあふれる出る光の泉からは先端に美しい宝珠を掲げた魔導師の杖が姿を現した。ダルドと魔導書が生成する武器に二つと同じものは存在しないため、それぞれが特別なのである。
「うん、いい輝き」
カイの剣は純粋で活きの良い光をたたえていたがアレスのこの杖は落ちていており、知的な輝きを秘めている。
「お前も磨いてやろう、おいで」
あまり笑顔を見せたことのないダルドだが、自分が生成した武器はやはり別のようだ。
そしてアレスの杖は彼の言葉を理解したように大人しくその身をダルドに預けていく。
ダルドは産湯へ赤子を入れるように優しい手つきで杖を磨いた。すると清流に身を清められた杖はまるで喜びを表すように輝いてみせた。
「―――もうすぐ日が暮れる…」
しばらくして手を休めたダルドは杖を魔導書へおさめ顔をあげた。
日の光が土を照らす匂いが徐々に弱まりはじめ、西の空を見上げれば燃えるような黄金色の波が広がりを見せている。
「…そろそろ戻ろう」
「あとは…アオイ姫の髪飾りだけ」
ダルドは使い慣れたバッグと魔導書を抱えると、夕日を浴びた岩や木々を飛び越えるように森の中を駆け抜けていった―――