狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆アオイの適職?そのⅢ
悠久の王立学園までは結構な距離がある。
身分を隠し、普通の女子高校生として学校へ通い始めたアオイの交通手段はもっぱら徒歩だ。馬車などで送り迎えなどされてしまっては、あまりにも目立ちすぎすぐに怪しまれてしまう。
そして城中に響き渡ったアオイの悲鳴。
広間では朝食を済ませ、紅茶に口を付けていたキュリオがクスリと笑っている。
ドドドと階段を下り、後ろからついてくるカイが学校の鞄を持ちながらアオイ共々広間になだれ込んできた。
「おはようございますお父様っ!!そして行って参ります!!」
広間に足を踏み入れたと思いきや、キュリオの近くまできて一方的な挨拶を済ませ…そのまま彼女は出て行こうとする。
「おはようアオイ。あと2回…忘れないようにね」
「ぐっ…」
アオイの背中へ微笑みながら告げるキュリオ。キュリオとカイ、二人が言っているこのカウントとは"アオイが寝坊して学校に遅刻した回数"の事だ。
元より、学校へ通うことを反対していたキュリオ。彼女の学業については、城の中で教育すればよいことだと常々言っていたのだ。
しかし…年頃になった彼女の懸命なお願いにより"まずは1年、寝坊による遅刻は5回までにおさめる事"を条件に高校への通学が許されたのだった。
まだ通い始めて3ヶ月。すでにカウントは3となり、残りはわずか2回となってしまった。
悔しそうに口元を歪めるアオイはカイから鞄を受け取ると、彼と並走して城の塀を駆け抜けていく。
「アオイ様…馬で送りましょうか?」
「う、ううんっ!!大丈夫!!カイありがとまたねっ!!」
「かしこまりました、ではお気をつけて…っ!」
走るスピードを緩めたカイは手を振りながら彼女を見送る。すると、アオイも一瞬振り向き、せっかく整えた髪に激しく風を受けながら手を振りかえしてくれる。
そして、城へと戻ろうと一歩踏み出したカイだが…すぐに足を止めてボソリと呟いた。
「あ…お弁当…」
見えなくなった彼女の姿を遠目で確認しようとしていた頃、城の中でも…
料理長のジルが、重箱を包んだ風呂敷を抱え叫びまくっている。
「あぁああぁああっ!!姫様の昼食があああっっ!!」
「ふふっ、今日も慌てて出て行ったからね…ちょうどいい。これから学校に用事があるから私が届けよう」
「…キュリオ様が、学校に…ですか?」
キュリオは纏っていた上着を脱ぎ、白いスーツのようなものを羽織り始めると…驚きを隠せずにいるジルの手からずっしりと重みのある重箱を受け取ったのだった―――