狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆アオイの適職?そのⅩⅡ
「うるせぇっ!!好きでこんな体に生まれたわけじゃねぇんだよっ!!」
ギリギリと喰いしばった真っ白な歯には人間には何とも不釣り合いな鋭い牙が光り…メキメキッと音を立てた彼の指先からは刃物のような長い爪がむき出しの状態でさらけ出されていた―――
「出来そこないの屑とは…あなたのような方の事をいうのでしょうね」
「…っ黙りやがれっっ!!」
シュウの右手がセンスイの喉元目がけて勢いよく突き立てられようとした…その時、
「痛っ…」
その声の主はセンスイではなかった。
たしか彼の背後にいて目に見えぬ恐怖に怯えていたアオイという名の少女の声だ。
「アオイ…?」
はっと我に返ったシュウの身からは先程のような異変はもう見られない。
「大丈夫かっ!?」
膝を抑え、痛みに蹲(うずくま)る彼女の顔色がおかしい。
そしてその額にはひどい汗が滲んでいた。
シュウはセンスイの長身を腕でどけながらアオイの傍に駆け寄っていく。
「アオイ、ちょっと傷見せてみろ!!」
「だい…じょうぶ、なんでも…」
と、膝を抑える彼女の手の間からは先程よりも重症化した傷口が見える。
「大丈夫じゃねぇだろ…っなんだこの傷…」
すると…愕然とするシュウの後ろでゆっくりと動き出す人の気配があった。
「人の血を前にして理性を保っていられるのは…流石ですね」
「…好きに言えよ」
またとなるセンスイの挑発にもシュウは動じなかった。
苦しそうに顔を歪めるアオイの前では、もう…そんなことはどうでもよかったのだ。
(こいつに頼むのは癪(しゃく)だが…今はこうするしか…)
グッと拳を握りしめ、悔しそうに唇を噛むシュウ。
そして振り向き…センスイを睨んだ。
「俺にはこいつの傷を治してやる事はできねぇ…あんたが手当してやってくれ」
「邪魔をしたのはあなたです。そして…言われなくても私はそのつもりですからご安心を。あなたは早く授業に戻りなさい」
横目でシュウを一瞥したセンスイは片膝をついてしゃがみ、アオイの体を軽々と持ち上げて保健室へと入っていく。
(邪魔なのは俺か…)
「…アオイまたあとでな」
「シュウ、ありがと…」
「……」
静かに閉じていく扉を前に、力のないシュウはなすすべもなくセンスイの背を見送るしかなかった―――