狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆アオイの適職?そのⅩⅢ
【センスイ視点】
「センスイ先生ごめんなさい…次の授業の邪魔してしまって…」
私の胸元にしがみつきながら…腕の中で申し訳なさそうに彼女が言葉を紡いだ。
「アオイさんは何も気にする必要はありません。これが保健医でもある私の務めなのですから」
私は彼女を安心させるように優しく微笑んでみせる。しかし、少女の顔色は冴えない。
「……」
もう少し彼女を腕に抱いていたい…と、教師としてあってはならない事を思ってしまう私がいる。そしてその願いも虚しくベッドが目の前に現れ…
「座れますか?」
「はい…」
"いいえ"と言われる事を期待していたわけではないが、彼女のぬくもりが遠ざかると思うと…やはり残念に思う気持ちが止められない。
「先生、その…私重かったでしょう?」
上目使いに頬を赤らめる彼女をベッドに落おろすと、その重みでわずかに寝台が軋む音がする。
「…?いいえ、まったく」
この学園へ赴任する際、年頃の娘が多いという理由からか…いつも以上に言葉への気遣いが必要なのだと教わった。
しかし、この言葉はお世辞でもなければ彼女を喜ばせようと思って言ったものでもない。実際そうなのだから本心を言ったまでだ。
「先生は優しいね」
彼女にあどけない笑みを向けれら…私もつられて目を細めてしまう。
「あなたを一日中抱き上げている自信はありますが…試してみましょうか?」
笑いながら立ち上がり、彼女の血に濡れた足を綺麗にしてやろうとタオルを手にして蛇口をひねる。
「…よかったセンスイ先生…」
ふと、彼女の声のトーンが下がり…不安そうな口調に戻ってしまった。
「…どうしました?」
"失礼"と言いながら、膝ぎりぎりで動きを止めている彼女のスカートをそっとたくし上げる。
「…あっ」
滑らかで透き通るような彼女の肌。
裾を上げる際、わずかに私の指先と真っ白な太ももが触れ合い…体をピクリと跳ねさせる彼女の反応がとても初々しい。
―――しかし、その反応を楽しむ余裕はどこにもなかった。
怪我の中心部はおろか血が出ていないそのまわりまで赤く腫れて充血しており…一体どうすればこのようなひどい傷になるのかと首を傾げてしまう。
「アオイさん…この怪我はいつ、どこで?」
「…今朝、正門をくぐってすぐのところでです」
"?"とこちらの顔を覗き込んでくる少女。
「では…質問を変えます。今までに怪我をされたことはありますか?」
(これが体質によるものだとしたら…他にも怪我の跡くらい残ってもいいはず…)
彼女の露出した部分には古傷のようなものは特別見受けられない。
「はい、怪我をしたことはあります。ただ…」
「…ただ?」
わずかに言いよどむ彼女の顔が何かを隠そうとしているのは明らかだった。
「…いつもはお父様やアレスに治していただいているので…」
(…彼女の父親は魔導師という事か?…アレス?どこかで聞き覚えがあるような…)
「…あっ!!お父様じゃなくてっ!!し、知り合いの…っ…」
(この慌てよう…何か隠さなくてはならない理由でもあるのだろうか)
「…えっと…」
俯いてしまったアオイ。その表情から何かを感じとってしまったセンスイ。
おそらくセンスイがこのまま彼女を追及してしまえば、嘘が苦手そうなこの少女はすぐぼろを出すだろう。
「大丈夫です。言いたくない事を無理にとはいいませんよ」
にこりと笑って濡れたタオルを足に這わせるセンスイ。その穏やかな表情にアオイはほっと心を落ち着けていく。
「先生ありがとう、そしてごめんなさい…シュウの事も、私のことも…」