狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆アオイの適職?そのXLⅨ
―――カレーパンをかじりながら歩き、ひとりきりの昼食を早めに終わらせてしまおうと考えていたシュウ。
(…あいつらがいない昼飯ってやっぱ暇だな…)
よくしゃべるミキに、嫌な顔ひとつせず始終笑みを浮かべながら話を聞いているアオイ。そしてその横顔をいつも眺めているのがシュウだった。
"ほら、シュウの好きな生ハムが入ってるよ?あ…ちゃんとお野菜も食べなきゃだめだからね?"
重箱のふたを皿代わりにして、自分の弁当を取り分けてくれるアオイ。ヴァンパイアのハーフである彼は、とにかく朝が苦手なため朝食はおろか…弁当というものを持ってくる習慣がないのだ。
しかし、その事を話せるわけがなく…
"なぁ…この弁当ってお前が作ってんの?それとも母ちゃん?"
素材が良いのはもちろん、バランス、バリエーション、味付けなど全てにおいて一流であることがわかる。
"ん?ううん…うちは父子家庭だから…"
言いにくそうに言葉を濁したアオイを目にし、秘密を抱えている自分とどこか似ている部分がある…と勝手に親近感を覚え始めていたシュウ。
"そっか…"
そういうとシュウはそれ以上追及せず、あの弁当を作っているのが父親なのだろうと勝手に想像していたのであった。
そんな事をぼんやり考えていると…
「…ぉわっ!!」
中庭へと続く校舎の角を曲がったとたん、向かってきた人物と激しく衝突してしまったのだ。
「いったー…」
「…あ?それはこっちのセリフだっ!って…ミキかよ…」
ため息まじりに言葉を吐き出したシュウはミキを一瞥すると、再度中庭に向けて歩き出した。すると…
「シュウ待って!それ以上は…」
「…何だよ」
「……」
言葉が続かず、何やら慌てた様子のミキから不穏な空気を感じ取ったシュウ。
「アオイはどうした」
「…あの子さ、人には言えない何か…隠し事をしているような気がしてたけど…」
「おう…」
やっぱりミキも気づいていたか…と内心呟いたシュウだったが、
「…それがアラン先生とセンスイ先生がらみだったみたいなんだよね」
「…アランとセンスイがらみ…?」
思いがけない彼女の一言に二人の言葉が蘇っていく。
"…彼女のまわりをあまりうろつかないで下さい。あなたが気安く触れていいような立場にあるお方ではない"
"お前は本当に優しい子だね…心配ない。王は自国の民を心の底から愛している。それが例え…醜い鬼の血を引いている悠久の子であってもね…"
アオイを元から知っているような彼らの口ぶり。
そして言葉の端々から感じるのは…彼女からシュウを遠ざけようとする異常なものばかりだった。
「…お前はカフェで待ってろ」
「…え?ちょっとシュウ…っ!」
ミキの叫びを背中に受けながら残ったカレーパンをひと飲みにし、軽い身のこなしで近くの樹木へと飛び移った彼は…
(アオイ、お前が隠してる事って一体何なんだ…?)
(アランやセンスイが知ってて…俺たちが知らないなんて…)
「…そんなの許さねぇからなっ…!」
「―――アラン先生、貴方の正体はおそらく…」
不敵な笑みを浮かべたセンスイ。そして間近に迫るシュウの影。
しかしアラン、センスイ、アオイの三人は互いを意識するあまり…その気配に全く気づいていないのであった―――