狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆アオイの適職?そのLXⅣ
―――湯浴みを終えたアオイのピンク色に染まる頬。そして彼女は香り立つ清らかなフレグランスを身に纏いながら、首元や袖、裾に銀のレースが美しい清楚なワンピースに身を包んだ。
バラの匂いがほのかに香る柔らかいタオルで髪の水分を拭き取り、軽く櫛を通す。窓ガラスを鏡がわりに己の姿をうつしていると…夜の帳(とばり)が下ろされた中、深海に輝く真珠のような優しい光に目を奪われた。
「…きれい…」
(…まだ外は寒いかしら)
少しだけ…と、その優しい光を全身で感じようとテラスに出てみる。すると…ひんやりとした夜風がとても心地良く、火照ったアオイの頬から適度に熱が奪われていく。
「いい風…」
月の光を浴びながら…目を閉じて深呼吸した彼女は、濡れた髪を肩に流し、再びタオルを手に室内へと戻ろうとした、が…
「…?…」
ふいにアオイは立ち止まって城の正門からさらに後方を凝視している。視界の端で動く何かをその瞳にとらえたからだ。
(…誰かいるの?)
この時間に城の近辺をうろつく者など、怪しまれ、捕らえられても仕方がない。しかし…その人影は隠れる素振りも見せず…
バルコニーの手摺(てすり)ギリギリまで歩み寄ったアオイの姿に気づいたようだった。
「手を…振っているみたい」
そこそこ視力の良いアオイだが、正門までかなりの距離があるため必死に目を凝らし、見覚えのある人物かどうか記憶の糸を辿っていった。
「だめ、わからない…」
手摺から身を乗り出してみるが、縮まった距離は微々たるものだった。
「…ごめんなさい、ここからじゃあなたの姿は見えないわ…」
諦めようとしたその時―――
「?」
遠くにいるその人影は、何やら閃いたようだ。
そして…大きく身振り手振りで何かを伝えようとしている。
さらに片膝をついたその人物は、折り曲げた足を両手で押さえているような仕草を見せた。