狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅡ
サッと肉を炒め、手早くたまねぎを放り込むミキ。ジュッと音が沸き上がり、いい香りが鼻孔をくすぐる。
「アオイ、たまねぎは透明になるまで炒めるんだよー」
「わかった、ちゃんとメモしておくね」
実習のノートとは別に可愛いメモ帳を取り出したアオイはミキの助言を次々と書き込んでいく。
「そしたら次は火の通りにくい、にんじんとじゃがいもを炒める!」
「はいっ!火の通りにくい…にんじん、じゃがいも…」
「火が通ったら、水は野菜が十分かぶるくらい入れるんだよ!」
シュウがミキの手助けをし、アオイはメモを取り続ける。そして次々に繰り広げられる目の前の光景にアオイの胸は高鳴っていく。
水が鍋に投入されると炒めていた賑やかな音は止み、しばしの平穏が訪れた。
「ミキ、シュウお疲れ様でした!」
少し離れていたアオイが二人に並ぶが…
「まだ終わりじゃねぇよ。野菜が柔らかくなるまで煮込むんだ。灰汁(あく)取りもあるからな?」
「んー?アオイ、お父さんが料理してるところも見たことないわけ?重箱の弁当作ってくれてるのアンタのお父さんよね?」
「え?あ…お父様いつも早起きだから…」
「じゃあ夜は?」
「…か、帰ったらだいたい作り終わってる…かなぁ?」
「ふぅん?朝早くて帰りも早いの?なんの仕事してるわけ?」
「えっ…とね…」
(嘘をつきたくない…でも王様なんて言えるわけない…なんて言ったらいいんだろう…)
すると…
「…今は調理実習の時間だ。君たち、何の話をしているのかな?鍋が煮えているよ?」
「あっ!ほんとだ!!」
うまく助け船を出してくれたのはもちろんアランだ。
「…アラン先生…」
ほっと胸を撫で下ろしたアオイだが、その表情は浮かない。
「アオイに嘘をつかせるわけにはいかないからね。国に携わる仕事をしているとでも言っておきなさい」
「あ…」
(そっか、それなら嘘は言ってないもんね…)
「わかりました」
「本当に優しい子だね、アオイは」
再び笑みを取り戻したアオイの頭を撫でようとして、ここが学園だという事を思い出し…手を止めたアラン。
「アオイ聞いてるー?灰汁(あく)取りなら一緒に出来るよ」
おたまを持って振り返ったミキにアオイは笑顔で応える。
「本当?私もやりたい!」
シュウが手にしていたおたまを借りて楽しそうに灰汁取りを始めるアオイ。
「…次の調理実習はハンバーグといったところかな?」
アオイの輝く笑顔を眩しそうに見つめながらボソリと呟いたアラン。カレーやハンバーグというメニューはどれもアオイが好きなものばかりだ。すなわち…アランの行う調理実習はアオイ中心に考えられた、彼女好みで簡単に作れるものが選ばれるのだった―――。