狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅧ
『アラン先生に気に入られてるからっていい気になってんじゃないわよ…』
『やるなら今しかない』
声を潜め、こちらの様子を伺っていた派手系女子数人が頷き合うと、そのまま調理室を出て廊下へと姿を消していった。
―――程なくしてメイクをばっちり決めた数人の女子生徒は用がないはずの教室へと戻ってきた。必要以上に時間をかけた化粧も、身に振りかけた香水もすべて…アランの気を引くために早起きした努力の賜物だった。
「アオイの教科書…全部ゴミ箱に捨ててやるわ」
「あ、じゃあ私、鞄捨てるー」
「そしたら私はあのでっかいお弁当でも隠しちゃおうっかな」
「ならあんたは誰か来ないか廊下で見張ってて」
「おっけー!」
そんな理不尽なやりとりが交わされ、廊下に一人、室内に三人。すると…窓側後方にあるアオイの机を目指した彼女らの耳に低音の男の声が響いた。
「…相変わらずキュリオ絡みの恨みを買い続けてんのか?あのお姫様は…」
「…っ!?」
バッと三人の視線が一点に集中し、声の主へと注がれる。
「な、なによあんたっ!!」
「あの服、制服じゃないわ…っ!不法侵入よ!!」
「ね、ねぇ…キュリオ様とかお姫様ってなんの話…?」
たった一人だけ、彼の言葉を拾った女子生徒が嫌な予感に冷や汗をかいている。
「俺が不法侵入なら…お前たちは器物破損の容疑か?」
アオイの椅子に深く座った男は薄ら笑いを浮かべながら、その長い両腕と足を組んでいる。
「ちょっとマズイんじゃない…?今の話聞かれて…」
目撃者が現れた事により、一気に怯み始めた彼女たち。
「あ、アラン」
後方の扉を見て、わざとらしく声を上げた青年。すると…曇りガラスにうつった人影に恐れを為した彼女らは…
「…えっ?!ヤバッ!に、逃げるよっっ!!」
「げっ!ちょっと待ってよっっ!!」
『なんであんたちゃんと見張ってないのよ!アラン先生来ちゃったじゃない!!』
『え!?アラン先生!?誰も来てないよ…?』
『…っいいから走りな!!』
バタバタと大慌てで教室を飛び出していったのだった。
そして彼が指を鳴らした途端、ガラスにうつった人影は跡形もなく消え去り…ひらりと足元に舞い戻った黒い羽。
「キュリオがいつまでもあいつにベタベタしてんのが原因だよな…絶対」