狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅩⅣ
「…キュリオ様、今日は姫様とご一緒ではないのですね…」
銀髪の王が溺愛している少女の姿が見えず、不安になった侍女のひとりが隣りにいる女官に囁いた。
「えぇ…。それになんとなく、お気を落とされているような…」
『いかんっ!急ぐぞアレス!!』
『はい!ガーラント先生!!』
侍女や女官の話を小耳に挟んだ二人は焦る気を押さえ、キュリオが消えた方角へと走った。
―――やがて、家臣や女官の声にも無言を貫いたまま自室へと戻ったキュリオ。
「……」
(一人きりの部屋が寂しいとは…この十数年で私は随分変わってしまったらしい)
五百年以上、たった一人で寝起きしていたはずのこの部屋が今はひどく物悲しく思える。それもそのはず…
(一度手に入れた愛を手放せるほど、…私も強くはないという事だ)
アオイと過ごした日々はとてもあたたかで、王という長い命の中…これほど満ち足りた生活がやってくるとは正直思わず、彼が一番驚いているのである。
「成長していく彼女を見て嬉しい反面…私の知らないところで花咲くアオイを手折ってしまいたいと…その衝動は日を追うごとに強くなるばかりだ…」
天井を見つめていたキュリオの瞳が…やがて一点に集中し、彼は吸い寄せられるように歩き出した。そして窓辺に飾られた華凜な花へと長い指を滑らせると…
「大地から切り離された花がどうなるか…光を絶たれた花がどうなるか…」
愛しい彼女の姿をその花々に重ね…キュリオ薄く微笑んでいる。
「…あぁ、君がこの手の中で朽ちてしまうのを見るのも悪くはないね―――」