狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅩⅤ
「…っ先生、私はここまでです。キュリオ様をよろしくお願いいたします」
キュリオの部屋周辺を立ち入る事の許されていないアレス。この先は彼の右腕である大魔導師・ガーラントに任せるしかない。
「よし、お主はここで待て。必ずキュリオ様に手渡して参るでな!」
「はい先生っ!」
ガーラントは長いローブの裾を激しく波打たせ、年の割に強い足腰を駆使しながら彼の部屋へと猛進していく。
一際美しく、見事な装飾が施されている扉の前まで立つと…呼吸を整えた彼は、小瓶を握りしめながらノックした。
「キュリオ様、ガーラントでございます…っ!」
『…はいれ』
室内から響いたキュリオの声はやはりどこか気落ちしていた。
(キュリオ様…)
「はっ!失礼いたしますぞ!」
ガーラントは重厚感のある扉を開き、燦々と光輝く王の私室へと足を踏み入れる。やはりここの空気は悠久一新鮮で、清らかな光と風が満ち溢れている場所だった。
(…この部屋がではない。キュリオ様のいる場所すべてがそうなのじゃ…)
しかし、その悠久の王はというと…
「…どうしたガーラント。そんなところで立ち止まって」
淡いピンク色の花を一輪、その手の中に収めたキュリオがソファの上でくつろいでいた。
「キュリオ様…姫様はまだご帰宅ではないのですな?」
「…あぁ。普段通りなら…帰りは夕方だろうね」
「キュリオ様…」
(ご様子を見るからに…姫様と何かあったのは間違いないようじゃな…)
長年傍を離れず、彼を見続けていたガーラントだからこそわかるキュリオの小さな変化。
ガーラントを一瞥した後、憂いを秘めたキュリオの瞳は再び手元にある花へと向けられた。
「…蕾の頃は良かった。手離しに甘えてくれた小さな花はもういないのか…」
ポツリと呟いたキュリオの声がやまびこのようにガーラントの耳へと響いた。
(い、いかんっ…これは紛れもなく姫様の事…っ!!)
「キュ、キュリオ様っ!!儂らを信じてこちらを姫様に…っ!!」
ガーラントは不思議な色の小瓶を銀髪の王へと差し出し、身を乗り出しながら話を続ける。
「人体に害のあるものではございませぬっ!儂らはキュリオ様と姫様の幸せをただ守りたいと願ってこれを作りましたのじゃっっ!!」
「これは…?」
キュリオはようやく顔を上げたものの、伝わったのはガーラントの熱い想いばかりで…その瞳は少々戸惑っているようにも見えた。
「…っちょっとした魔法薬でございます!すでに安全は確認されておりますゆえ、どうぞご安心を!!」
「ガーラント、君を疑うわけではないが…なぜこれをアオイに?」
「もちろんお二人様の幸せのためですじゃっっ!!ではっ!儂はこれにて失礼いたしますのじゃ!!」
嵐が過ぎ去ったかの如く、ガーラントは王の私室を勢いよく飛び出していった。そして、小瓶とともに残されたキュリオはそれを手に取り訝しげに見つめている。
「…私たちの幸せのため…?」